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福岡高等裁判所 昭和47年(行コ)5号 判決 1973年3月13日

控訴人

山崎重雄

被控訴人福岡県知事

亀井光

右指定代理人

伴喬之輔

外二名

主文

原判決を取り消す。

控訴人の本件各訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

控訴人は「原判決を取り消す。別紙目録記載の農地に対する山崎利吉と山崎英登間の賃借権設定につき福岡県糸島郡二丈町農業委員会のなした許可処分に対する控訴人の審査請求について、被控訴人が昭和四六年一〇月三〇日付でなした審査請求棄却の裁決を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、当審において、関連請求として「被控訴人は控訴人に対し金二〇万円およびこれに対する昭和四七年一一月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴代理人は、本案前の答弁として「原判決を取り消す。控訴人の本件訴えを却下する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求め、本案の答弁として「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二、控訴人の請求原因

一、裁決取消請求の請求原因

(一)  控訴人は別紙目録記載の農地(以下、本件農地という。)の耕作に従事していたところ、昭和四四年一二月一五日、福岡県糸島郡二丈町農業委員会(以下、単に委員会という。)は、本件農地の所有者山崎利吉と賃借人山崎英登間の賃借権設定につき、農地法三条による農地賃貸借権設定許可処分をなした。

(二)  しかしながら、委員会の右許可処分は控訴人の意見ないし承諾を求めることなくなされたものであつたから、控訴人は委員会に対し、控訴人が本件農地の耕作権者であることの確認を求めたところ、昭和四五年八月一九日、委員会は控訴人の右申出を認めて控訴人に対し、昭和四三年度および昭和四四年度の本件農地の耕作権者が控訴人であることを確認する耕作証明書を発行した。

(三)  そこで、控訴人は被控訴人に対し、前記委員会の許可処分の違法を主張して審査請求をしたところ、被控訴人は、昭和四六年一〇月三〇日、控訴人の右審査請求を棄却する旨の裁決をなした。

ところが、その理由とするところは、委員会が控訴人に発行した前記耕作証明書なるものは、控訴人が提出した書類だけに基づいて発行されたものであるから、これだけをもつて直ちに控訴人が耕作者であるとはいえないという判断であるが、耕作証明書がいかなる内部手続で発行されたかは右証明書の効力になんらの影響を与えるものではないから、被控訴人の掲げる右の理由は不当である。また右裁決をなすにあたり、被控訴人は控訴人の意見を徴することなく、委員会の意見のみをきいて裁決したから違法である。

よつて被控訴人のなした右裁決の取消を求める。

二、損害賠償請求(関連請求)の請求原因

控訴人は委員会のなした前記賃借権設定許可処分および被控訴人のなした前記審査請求棄却の裁決により、本件農地を耕作することができず、そのため本件農地より収獲して得べかりし米一〇俵分金一〇万円相当の損害を蒙つたのみならず、甚だしい苦痛と不名誉を受け多大の精神的損害を蒙つた。右精神的損害に対する慰藉料としては金一〇万円が相当である。

よつて、控訴人は被控訴人に対し、右損害金合計金二〇万円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和四七年一一月二八日日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、被控訴人の答弁

一、裁決取消請求に対する答弁

(一)  本案前の抗弁

控訴人が本訴において取消を求める本件審査請求棄却の裁決の対象となつた原処分は、委員会が山崎利吉と山崎英登間の本件農地の賃借権設定につきなした農地法三条の許可処分であるところ、右賃貸借契約は、昭和四六年五月三一日、右両者間において合意解約され、同法二〇条一項但書二号、同条六項、農地法施行規則一四条の二により、右解約当事者から委員会に対しその旨の通知がなされて適法に解約されているのであるから、控訴人の本訴請求は訴えの利益を欠き不適法である。

(二)  本案の答弁

控訴人主張の請求原因(一)の事実中、委員会が控訴人主張のごとき許可処分をしたことは認めるが、本件農地を控訴人が耕作していたことは知らない。同(二)の事実中、委員会が許可処分をなすにあたり控訴人の意見ないし承諾を求めなかつたことは認めるが、控訴人が本件農地の耕作権者であることは争う。その余の事実は知らない。同(三)の事実中、控訴人から被控訴人に対しその主張のごとき審査請求があり、これに対し被控訴人が控訴人主張のとおりの裁決をしたことは認めるが、右裁決が違法であるとの主張は争う。

行政処分の取消の訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消の訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消の訴えにおいては、処分の違法を理由として取消を求めることができないところ、控訴人は、本訴において委員会のなした原処分の違法を主張するのみで、裁決固有のかしについてなんら主張していないので、控訴人の本訴請求は主張自体失当である。

二、損害賠償請求(関連請求)に対する答弁

控訴人が当審において追加請求した損害賠償の関連請求については、被控訴人は、行政事件訴訟法一九条一項後段、一六条二項により異議を述べる。

第四、被控訴人の答弁に対する控訴人の主張

一、裁決取消請求に対する本案前の抗弁について

山崎利吉と山崎登間の本件農地の賃貸借契約が被控訴人主張のとおり合意解約されたことは認める。

二、損害賠償の関連請求について

被控訴人の異議申立により損害賠償の関連請求の追加併合が不適法になるとすれば、控訴人は右関連請求を管轄第一審裁判所に移送する旨の申立をする。

第五、証拠<略>

理由

一、裁決取消請求について

本件農地に対する賃貸人山崎利吉と賃借人山崎英登間の賃借権設定につき委員会が昭和四四年一二月一五日農地法三条による許可処分をなしたこと、控訴人が本件農地の耕作権者であることを理由に右許可処分は違法であると主張して被控訴人に審査の請求をなしたところ、被控訴人が昭和四六年一〇月三〇日控訴人の右審査請求を棄却する旨の裁決をなしたことは当事者間に争いがない。

ところで、自己に農地の賃借権等の耕作権があると主張する者が、当該農地の所有者と第三者との間でなされた賃貸借契約に対する農地法三条による農業委員会の賃借権設定許可処分について、当該処分または裁決の取消の訴えを提起して右訴訟の係属中、所有者と第三者との間で右賃貸借が適法に合意解約された場合には、右許可処分の対象となつた契約そのものが消滅するのであるから、もはや当該処分または裁決の取消を求める訴えの利益はなくなつたものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、山崎利吉と山崎英登間の本件農地の賃貸借契約は、昭和四六年五月三一日、右両者間において合意解約され、農地法二〇条一項但書二号、同条六項、農地法施行規則一四条の二により、右解約当事者から委員会に対しその旨の通知がなされて適法に解約されたことは当事者間に争いがないので、前記説示のとおり、控訴人の本件審査請求棄却の裁決の取消を求める請求は、訴えの利益を欠き不適法というべきである。

二、損害賠償請求(関連請求)について

控訴人の当審における損害賠償の関連請求について、被控訴人は、行政事件訴訟一法一九条一項後段、一六条二項により、異議の申立をなしたから、右関連請求の追加併合は許されない。

控訴人は、被控訴人の異議申立により、右関連請求の追加併合が許れないとすれば、これを管轄第一審裁判所に移送されたい旨の申立をなしている。

ところで、取消訴訟が不適法であつても、関連請求が独立の訴えの要件を備えかつこれについて当事者から管轄裁判所に移送の申立がなされた場合には、当事者の意思を尊重して、控訴審においても、関連請求を管轄第一審裁判所に移送することができるものと解される。

しかしながら、控訴人の提起した本件関連請求(損害賠償請求)は、その主張自体から明らかなように、本件被控訴人である福岡県知事ではなく、福岡県を被告としなければならないから、関連請求としての訴えの要件を備えていないものというべく、したがつて、管轄第一審裁判所に移送するまでもなく、不適法として却下を免れない。

三、結論

よつて、控訴人の本件裁決取消請求は訴の利益のない不適法な訴えであるから、これと異なる原判決を取り消し、右訴えを却下することとし、控訴人の当審における損害賠償の関連請求もまた不適法であるから、右訴えもこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(松村利智 塩田駿一 境野剛)

目録<省略>

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